Elect the Dead - Serj Tankian

Elect the Dead

Elect the Dead

昨2007年10月に発売されたSerj Tankianサージ・タンキアン)のソロアルバム、Elect the Deadについて今更ながら思うところをばー。
サージといえばSystem of a Downのフロントマン(Vo/Key)としてここ日本でも広く知られた人。奇抜ながらもしっかりとした歌唱力に裏打ちされたパフォーマンスには定評があり、いわゆる“変態系”ボーカリストとしては今やあのマイク・パットンと並ぶほどの知名度があるのではないでしょうか。
Elect the Deadはそんなサージが初めて発表したソロ作品。リリースは自身のレーベルであるSerjical Strikeから。かつてSerartの名義で同レーベルから作品をリリースしてはいたものの、“Serj Tankian”個人としてアルバムを世に送り出すのは初の試み。
そしてElect the Deadは2006年のOzzfest参戦を最後にSOADが活動休止して以来、メンバーが初めて公式に発表する作品でもありました。SOADのファンであるぼくとしては、相当な期待を胸にアルバムを手に取ったわけです。こちらが先行シングル。
Serj Tankian - Empty Walls

先にザクッと言っててしまうと、Elect the Deadは“ソロアルバム”としてはどうしようもないほどの大失敗作だと思います。いやね、“アルバム”としてはかなりいい出来なんですけどね。“ソロ”と頭につくと話は違う。何というか、サージがSystem of a Downから逃れられていないんだなーってのが浮き彫りになっちゃってるんです。
もちろん曲は良い。全曲良い。メロディにはほんの数秒聴いただけでしただけで「サージだ!」と分かるほどのクセがしっかりあるし、アレンジもかっちり。メッセージ性の強さも健在。アルバムのアートワークもかなり凝ってて、特に輸入限定盤は気合入りすぎですばらしい。PV全曲分作っちゃうなどの試みも評価されるべき。とにかく“アルバム”としてのElect the Deadは彼のファン以外にも広く受け入れられ得るような、なかなか優れた作品なんですよ。
でもやっぱり、完成したアルバムを聞いて「これをソロでやる必要があったのか?」と考えると、かなりの疑問を感じるのです。逆を言えば「こんなんSOADでやれよ!」ってことです。さっき自分で“ほんの数秒聴いただけでしただけで「サージだ!」と分かる”って書いたんですけど、訂正。ほんの数秒聴いただけで「SOADだ!」って思えてしまう。どうしても。
とにかくトータルでめちゃくちゃシステムしてるんですけど、さらにつっこんだことを言えば、System of a Downが要するもう一人のフロントマンであり、曲作りの大部分を担っていたDaron Malakianダロン・マラキアン、G/Vo)の存在が、Elect the Deadという作品にものすごーく濃い影を落としてます。
メロディラインとか細かいギターのニュアンスとかボーカルの重ね方とか、アルバムのあらゆる面でダロンの影響が感じられる。で、結局あーここダロンだったらもっと気持ち悪く弾いてもっと気持ち悪くハモるのに、みたいな歯痒さが募る一方なんですよ。聴けば聴くほどにダロンがそこにいてほしいと思い、さらにはダロンがそこにいるかのような錯覚に陥るのです。流石に重度SOAD中毒者にのみ限定的にみられる末期症状かもしんないっすけど…。
そういえばJerry Cantrellジェリー・カントレル)のソロアルバムを聴いたときにも同じようなことを感じたなあ。ジェリーのバンドであるAlice in Chainsも、やっぱりSOADと同じように二人の個性の強いボーカリストを擁していたバンドで、今は亡きLayne Steyley(レイン・ステイリー)というそれはもうすごい声を持ったもう一人のボーカリストがいました。ジェリーのソロ作Degeradation Tripはレインの死の少し前に製作されたものだったらしいのですが、後追いで聴いたぼくとしては曲中の所々でいるはずのないレインの声が聴こえるような気がして、なんだか不思議な気分になったものです。
両バンドとも強烈なコンビネーションを武器としているだけに、二人トータルでの印象がすり込まれちゃって、リスナーとしては条件反射的にもう一人の存在を認識してしまうのでしょうか。聴く人間でもそうなんだから、作る人間としてその壁を超えるのはどうしようもないぐらい難しいんだろうなあ。
でも本来ならば、サージはもっとSOADっぽくない“ソロアルバム”を作ることも出来たはずなのです。たぶん。当初、Elect the Deadは実際にリリースされた今時のロックっぽいものではなく、よりアコースティックなものとして作られていまして、そのオリジナルを海外盤のボーナストラックなどで聴くことが出来るのですが、はっきり言って元のアレンジのほうが全然かっこいいです。例えばこちら(↓)は先ほど紹介した曲のバージョン違い。曲自体がしっかりしてるから静かな演奏にしてもつかみがあるし、ちゃんとソロでしかできない音が鳴ってます。
■Empty Walls (Acoustic)

それにも関わらず、サージがSOADっぽいものを作らざるをえなかったあたりが、ファンとしてはすんごく感慨深いです。Elect the Deadは、とらえようによってはSOADファンに確実に買ってもらうために守りに入った最悪の“安牌アルバム”ですが、決してサージはそんなことはしない。と、思いたい。
というか元のアコースティックバージョンが十二分に世間で通用するレベルであった以上、やっぱりお金の絡んだフラチな動機でわざとSOADっぽくしたのではなく、ねっこのレベルでサージがSOADと繋がってしまってるが故に彼の意図を超えたレベルでSOADっぽくなってしまったんじゃないかと。盲目信者の主観と勝手な願望がかなり先行していますが、個人的にはそう解釈しています。
…まあここまでを簡潔にまとめると「さっさと再結成して!」ってことになるんですけど。とにかくElect the Deadはぼくにとってある意味100点ある意味0点、年間ベストとワースト両方にランクインさせたくなるような、そんなアルバムでした。ちなみに海外サイトのユーザーレビューもそういうかんじになってて笑えます。コチラ
さーて、次に控えるはダロン率いるScars On Broadway。どんなことになるのか今から楽しみです。ここでも逐一最新情報は紹介する予定。なんか解散説とかも某所でしきりに流れてるけど、ぼくはSOADを信じて待ってまする。



せっかくなので参考YouTube
Alice in Chains - Heaven Beside You

AiCの3rdより。彼らの曲の中ではいちばん好き。繊細かつ暴力的なバランス感がすばらしいっす。3rdはアルバムとしてはそんなに好きじゃないんだけどこの曲が聞きたいがためにヘビロテしたような。
Jerry Cantrell - My Song

Degradation Tripの曲が落ちてなかったのでソロ一枚目から。この曲もやっぱりAiCっぽいなあ。
■Sugar - System of a Down

やっぱりこの四人じゃないと、ってことで。尻フェチの方は必見。