SCREAMERS - The 1st Screening in Japan


6月26日に日本初公開となった映画『SCREAMERS』のレポです。上映会はUNHCR主催の第三回難民映画祭の一環として行なわれました。世間ではまだほとんど周知されていない作品であり、ぼくが書いたものによって未見の方に変なイメージを植えつけてしまってはまずいので、断片的ではありますがなるべく慎重に時間をかけて感想などを書き綴ろうと思います。

SCREAMERS

人はすべてのジェノサイドに対して糾弾の叫びをあげる者(SCREAMER)となるべきである・・・というのが『SCREAMERS』という映画のメッセージです。
映画の主眼はあくまでジェノサイドに対し人々の意識を向けること、そしてSystem of a Downという存在がその上でどのような役割を果たすのか、という点です。
作品全編にわたってSOADがフィーチャーされているということで、てっきりアルメニアンジェノサイドそのものを掘り下げた作品なのかと思いきや、あくまでそれは一つの例として扱われていました。

Armenia

とはいってもアルメニア虐殺問題が作中でのメイントピックであることに変わりはありません。何故そこにスポットを当てなければならなかったのか?
それがどこでどのように行なわれたものであれ、ジェノサイドは認められざるべきもの。が、世界史上最大の悲劇とされるナチスドイツのホロコースト以降も、カンボジアルワンダダルフールなど、ジェノサイドは置き続けており、この現状を打破するためには、まず何より歴史から学ぶことが重要となります。過去の惨事から目を背けていては何も変わりません。
ところが、今なお歴史として認められず、“なかったこと”にされている事件があります。それが、1915年に時のトルコ政府がアルメニア民族に対して行なったジェノサイドです。無残に殺されていった人々を忘れて、惨劇をまた繰り返してはいけない。そこで立ち上がったのがSystem of a Downだった、というわけです。
トルコ政府は、今なお1915年のジェノサイドを否定し続けています。それをれっきとした歴史的事実として認めさせるべく、SOADは様々な活動をし続けてきました。

System of a Down

映画はアルメニアンジェノサイドから実に90年を数えた2005年に、SOADが行なったSOULSというベネフィットライブの映像から始まるのですが、冒頭のバックステージ→B.Y.O.B.の流れでもう鳥肌全開。
個人的にはアメリカ本国で発表された2006年末より日本での公開を望んでいた作品であり(証拠)、今回こうして日本で観られたというだけで感動でした。
その他にもChop Suey、Cigaro、P.L.U.C.K.、Aerials、ATWA、Holy Mountainなどのライブ映像が大画面で堪能できます。SOADファンなら、もうそれだけで大満足なのでは。
作中に多数登場する凄惨なジェノサイドのイメージとの相乗効果も抜群です。SOADのエスニックなテイストが、自然と何処の国で起きた虐殺の様子にもマッチするんですよね・・・。不思議でした。
メンバーの様子もかなり興味深かったです。トルコのファンについて話すダロン。ツアーバスで寝てる人にいたずらするシャヴォ。「曽祖父は祖父の前で首を切られ、そして祖父は父の前で首を切られた」と衝撃的なエピソードを語るジョン。
最も出番の多かったサージについては、アルメニア虐殺問題に関して彼が下院議員に直談判しに行くシーンが印象的でした。サージってすごく超然としたイメージがあったのですが、議員を前にした彼は意外にも若干の緊張を感じさせる様子で紳士的にふるまっており、それがかえって彼の真剣さを際立たせていたように思います。

Subtitle

歌詞の対訳がすごく上手だったことも特筆しておくべきでしょう。テンポが早くてラップともまた違うSOADの独特な歌いまわしに字幕をつけるとなると、かなり大変だろうなあ、と前から思っていたりしたのですが、『SCREAMERS』では丁寧に言葉の意訳と取捨選択がなされていました。
「元の歌詞と意味が違う!」「訳されてない単語がある!」というマニアックなファンからのツッコミの声もあがりそうですが、字幕ってのは基本的には初見さんを意識して作られるべきもの。全部訳すと元の歌詞を知らない人には眼で追いきれないですからね。だからこそどこを切ってどこ伝えるかが死活問題なのですが、その点を絶妙にクリアしていたように思います。
長年SOADの歌詞と向き合ってきた人間の一人として、素直に感動しました。字幕スタッフの方が上映中すぐとなりに座っていらしたんですけど、ビビってお礼ができなかったのでここで改めて。ありがとうございました。

Inside of System

ロックに端を発する若者の社会運動など所詮ファッション感覚によるうすっぺらいものじゃないか。くだらない。・・・みたいなことはよく言われるわけで、SOAD自身もHypnotizeという曲でそのようなことを歌っています。たしかに作中に現れる一部のファンの様子などを見ると、それが一時的な熱狂であるように感じられなくもないです。
が、それでも人の意識を知られざる悲劇に向けることが出来るという音楽の力には測り知れないものがあるのだと感じました。ぼくを含め世界中のほとんどのSOADファンは、彼らに出会うまでアルメニアという国や民族の存在すら知らなかったはず。そんな人間を、ささやかながらもこうしてネットの海の片隅で“叫び”をあげさせるまでに変えることができるのです。驚くべきことだと思います。

Outside Of System

質疑応答コーナーで、監督のカーラさんが「今日SOADが好きでここに来た人はどれぐらいいますか?」と客席に問いかけたのですが、キャパ100人強ほどの会場で手を挙げたのは意外にも3、4割でした。というわけで、実に会場を訪れた半数以上の人々はSOADを知らない人だったのです。
そういう方たちにはこの映画はどんな風に写ったのかなあ、と不思議に思っていたのですが、幸いにもイベント終了後にとある50歳ぐらいの女性の方がぼく話しかけてくださり、「とってもいい映画でした」と感動を伝えてくれました。SOADの音楽にもたいへん心を打たれたとか。
これって何気にめちゃくちゃすごいことで、というのもSOADみたいな極端な音楽って普段そういうものを好まない人にとっては迷惑極まりないただの騒音以外の何者でもなく、その魅力を伝えるのがかなり難しいんですよね。モノがモノだから無理強いはできないし。
しかし!『SCREAMERS』でシリアスなテーマに真正面から取り組むSOADの姿は、日常的にまったくロックを聞かないような人の心をも動かしたのです。すばらしいとしかいいようがない。映画というメディアの力を思い知らされました。

DVD

気になる『SCREAMAERS』の国内盤DVDリリースについて。先に結論を言うと、残念ながら現段階では完全に未定だそうです。スタッフの方と少しお話ししたのですが、実はけっこう前にDVD化のハナシは出たものの、

・アーティストの映像を使うことによって生じるレコード会社との権利云々に関する問題
・音楽作品でもありドキュメンタリーでもあるため、メインターゲットが絞れず、マーケティングがどっちつかずになってしまう

という、主に二つの理由で結局発売には至らなかったそうです。うーむ。前者は仕方ないとしても、後者はなんとかクリアできると思うんだけどなあ。先に述べたように、『SCREAMERS』にはSOADファンにも純粋に社会問題に興味がある人にも何かを訴える力があるんだし。今回せっかくいい字幕がついたことですし、なんとか発売にこぎつけていただきたいです。

With Carla Garapedian

監督のカーラ・ガラペディアンさんとも少しだけお話しすることができました。上映が終わりお客さんもほとんど帰ったあとに特攻。なんとかインパクトのある先制攻撃をしかけねば・・・と思い、テンパりまくった挙句しどろもどろの英語で「ききききき今日は日本一のSOADバカとしてここに来ました!」と挨拶。
我ながら大きく出たものですが、流石に今日ここまで来てカーラさんに会いにいった日本のSOADファンってのもそういるもんじゃないだろうし、あながちウソではないよね・・・?とりあえずカーラさんがちゃんと笑い飛ばしてくれたので一安心。
カーラさんから「わお、そりゃすごいわね(笑)じゃあSOADではどの曲が一番好きなの?」と訊かれるも、答えに窮して「いや、もう、全部!全部っす!」とリアクション。またしてもウソは言っていない。それも笑い飛ばしてくれました。カーラさんマジ寛大。
その後も「作中で使った曲は、歌詞と映像があうように気を遣って選んだんだけどどうだった?」「間違いない選曲に感動でした!」みたいなやりとりを。他にもロシアでのサージのライブがすごかったらしいとか、もうすぐ始まるScarsのツアーも楽しみですよねとか、色々とお話しできました。
で、おれが「SOADはもうだいぶ長いこと日本に来てないんですよね・・・」とボヤいてみたところ、「そうそう!たしか2001年以来じゃないかしら?」とカーラさん超性格に現状を把握していらっしゃいました。おっしゃるとおり、2001年のフジが最後です。すごい。
さらに「サージは今ツアーで世界をまわってるけど・・・“た・ぶ・ん”日本にも行くって言ってたわよ」という情報もゲット。そして「とにかく次にメンバーと会う機会があったら、絶対に日本のファンが待ってるって伝えておくからね」と約束してくれました。うう、涙が・・・。
最後にはクリス・ペプラーを激さわやかにしたかんじの超ナイスガイなスタッフの方に無理を言ってゆずってもらったポスターに、カーラさんのサインまでいただきました。もう言うこと無いッス・・・!カーラさん及びスタッフのみなさまにはいくらお礼の言葉を並べても足りないぐらいです。本当にありがとうございました。

Outro

未だSOADのライヴに足を運んだことの無いぼくにとっては、今回が初めて参加するSOADがらみのイベントだったので、日本のSOADファンが少なからず一同に介しているというだけで、ちょっと感動でした。帰り際に学生時代SOADのコピバンをされていたという方とも少しお話しすることができて、すごく嬉しかったです。
普段SOADについて話せる人がほとんどおらず、そのモヤモヤをひたすらこうしてネットにぶつけ続けてきただけの自分にとっては、今回の上映会はかなりの刺激となりました。ますますSystem of a Downを好きになれたような気がいたします。
SOADがアルメニア虐殺問題と戦い続ける姿は、彼らをほんの数十分前まで全く知らなかった人々の心を打つほどに真摯で力強く、感動的でした。それだけに現在の活動休止状態が残念で仕方ありません。
しかし、System of a Downはすべての人々が“叫び”をあげるその日まで彼らは決して戦いをやめることはないでしょう。SCREAMERSを観たあとで、ぼくはそう確信しました。一刻も早い彼らの再起を願っています。
以上、『SCREAMERS』のレポでしたー。最後まで長々と読んでくださった方には心から感謝いたします。おつかれっした!



おまけにサインをいただいたポスター↓

もうちょっと太いペンを持参していくべきだった・・・orz 遠目にはわからないのですが、こんなかんじで眼にうたうサージさんが写っておられます。