国田ジンジャー先生降臨

それと個人的にいちばん驚いたのが、一部マニアの間でカルト的人気を誇るシュールリアリスティック・トランスレイターこと国田ジンジャー氏が対訳を手がけていたことです。氏については、国田詩学の権威にして開拓者にして第一人者であるmine-Dさんのすばらしい先行研究(下の方)をご参照ください。最近は国内盤を買うことも少なく、久々に氏のお仕事にふれた自分としては大変な感慨がありました。
今回の対訳でも鬼才・国田ジンジャー氏はその力を如何なく発揮しておられます。ダロンの書く歌詞はかなり口語的な上に語彙も単純で、基本的に詩としてはわかりやすい部類に入るはずなのですが、国田先生はそれを敢えてデリダ流に脱構築して複雑怪奇な独自の前衛文学に昇華してくださいました。すばらしいです。もちろん“I”を“俺”、“You”を“お前”と機械的に訳したり、「〜よ」「〜いる」「〜んだ」を多用するといったジンジャーメソッドも健在です。断片的にステキな表現を挙げると、

「みんな負けていて、選んでいる人は誰もいない」
「ハイな気分で通過していて泣けてきたのが不思議だ」
「俺にとってスーパーカラフラジャリスティックエクスピエタラフォーシャスって言葉だよ」
「奥の方でのトラブルが見えるよ」
「時々、時だけど」
「お前の顔を叩いてお前の母親を罵ったら俺に惚れた」
「奴らはクソ食らえと言って、失敗している」
「どんどん突き進むんだ どんどん行っている」

などなど、どれもマニアなら一目でそれとわかるものばかり。これほど不合理な味わいのあることばを使いこなせるのは、世界広しと言えど間違いなく国田先生だけです。ONE&ONLYです。ジーク・ジンジャー(一定のトーンで)