Dissident

Vs

Vs

えー、今回はPearl Jamの話です。Pearl Jamには昨年以来ありえない勢いで心酔してしまいまして、何処から手をつければよいのやらさっぱりわからないんですけど、とりあえず“曲”という単位の小さいところから攻めてみようと思います。詳しい経緯は前置きを。特にPearl Jamに関しては、それまで全然好きじゃなかった曲でも、歌詞の内容がわかった途端に印象が一変した、というようなことがめちゃくちゃよくあるのです。自分の経験からして。
というわけで今回紹介するのはPearl Jamの2nd『VS』より、“Dissident”
エディ・ヴェダーはストーリー性のある歌詞を書くことで有名なんですが、このDissidentはその中でも異色作にして最高傑作のひとつなんじゃないかと。善と悪とをどう捉えるべきかという気の遠くなるような問いかけがある男女の物語に則して歌われているのですが、少ない言葉で多くを語る典型例のような、めちゃくちゃよくできた詩です。
■Dissident - Pearl Jam


She nursed him there...over a night
I wasn't so sure she wanted him to stay
What to say, what to say
But soon she was down...soon he was low
At a quarter past a holy no
She had to turn around



When she couldn't hold...she folded
“A dissident is here”
Escape is never the safest path
“A dissident, a dissident is here”



And to this day...she's glided on
Always home, but so far away
Like a word misplaced
Nothing said, what a waste
When she had contact with the conflict
There was meaning...but she sold him to the state
She had to turn around



She gave him away,when she couldn't hold...she folded
“A dissident is here”
Escape is never the safest path
“A dissident, a dissident is here”



(対訳はPearl Jam Lyrics Noteさんを御参照。すごく丁寧です。)



この曲の主人公は一人の女性。彼女はある男をかくまうのですが、彼こそが“dissident”。“dissident”とは「反逆者」みたいな意味で、曲のストーリーにのっとって言い換えるならば、「政治犯」といったかんじかなあ。
曲中ではこの物語の舞台設定や前後関係については一切語られていないのですが、<妄想>おそらく世界を不当に牛耳る何らかの大きい組織があって、男は正義のため組織の打倒を計った末に失敗し傷を負い、偶然であった女もとへと逃げ延びたのでしょう。 こういうかんじ、個人的にすごーくツボです。社会派SFっぽくて。ここまで聞き手の想像力を刺激できるってのもエディの手腕あってこそ。
話を戻しましょう。女は男を助けるものの、その動機は曖昧です。正義感のためなのか。それとも男を愛しているのか。が、結局彼女は男をかくまうことのリスクに屈し、彼を告発します。そのときの彼女がことばが、コーラスで歌われている
“A dissident is here(犯人はここにいる)”
というフレーズに重なるのです。その後に続く
“Escape is never the safest path(逃ることは決して安全な方法ではない)”
という文句は、結果として良心に反した行動を取らざるを得なかった女の、自分への説得のようなものでしょう。
観念的なテーマを扱いながらも抽象的にはならず、むしろメッセージは明確。政治的な解釈もできるけれど右か左かというくだらない次元ではなく、むしろそのどちらにも救いを見出せないという現実を鋭く描いています。曖昧な結末がかえってこちらの想像力をかきたてる、本当にいい歌だと思います。
自分の命のためとはいえ、彼女はその手で正義に生きる男を殺したに等しいわけですから、その後悔と葛藤はかなり深刻なはず。が、この曲のその後についてはやっぱり何も言及されていないので、はたして彼女はどう裁かれるべきなのか、あとはの聴き手の解釈次第。深いっす。
ここまで読んでくださった方は、せっかくなので是非もう一度曲を聴き直してみてください。けっこう印象変わるはずですよー。

で、ここからはさらに超私的な考えなんですが、この曲のストーリーにはもう一つの解釈が成り立つと思うんですよねー。具体的には、コーラスの部分を主客逆転させて、“dissident”である男自身による自白であるとしてもおもしろいんじゃないかと。「女が男を告発する」っていう構図はエディ公認なので、間違いであることは重々承知なんですけどね。
ぼくが最初にこの曲の歌詞を読んだときに、“A dissident is here”ということばのもつ力強い響きに、なんつーかこう男の覚悟みたいなものを感じたんですよ。「反逆者はここだ!」と自分から名乗り出るわけです。そう考えると、後の“Escape is〜”っていうフレーズも一転、「逃げていては決して危機を脱することはできない」というポジティブなニュアンスを帯びて、それはそれでなんかすげえかっこよくないっすか?
ちなみに実はこのブログのタイトルも当初は“Dissident is Here”にする予定だったりしました。